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「家の中にほっとする場所もってますか?」

 ほっとする場所は、家庭内における立場と役割、生活スタイルによってそれぞれ場所は違うだろうが、家族の関係性とも大きな関連がありそうである。

 最近何人かの主婦に聞いてみた。彼女たちの意見はおおむね「家族のコミュニケーションはとても大事だから、家族が集まるリビングやダイニングを重視して住まいを考えがちだったが、1人になれる空間が切実にほしい。多分そこがほっとする空間」という答えであった。これは夫も子どもも同じ意見だと思う。

 「私は口うるさい妻」と自認している主婦は「夫の部屋は絶対必要。ないと夫婦仲が険悪になる」と言う。「わが家の夫は私が口うるさく片付けろ、洗面所を汚さないで、水を垂らしたら即拭(ふ)いてなどと言うので、私が文句を言い始めるとす〜っと書斎に入ってしまう。反論するとけんかになるし、面倒なのでしょう。狭くて散らかってはいるけれど、夫にとってはあの部屋がほっとする場所なのだと思う」

 では当の主婦は、夫の消えたリビングがほっとする場所なのだろうか。「今は自分の部屋がないので、ほっとするという実感はない。家は主婦の仕事場だからやることが山のようにある。リビングに座っても気になることをすぐに思いついて、身体を動かしてしまう。できれば2畳でいいから自分だけのオーディオヴィジュアル ルームがほしい」と言う。見たいDVDを借りてきても、「何見てるの?」と夫や子どもにのぞかれると興ざめなのだそうだ。

 別の主婦は、食事以外の時間に大きな食卓の自分の椅子(いす)に座って、好きなことをしている時が、最もほっとする時だという。対角線上に夫が座って何かしていても気にならない、お互いの存在は感じながらも邪魔しあわない関係に幸せを感じるのだそうだ。「でもこれは8人掛けくらいの大きなテーブルであることが絶対条件ですよ」とのこと。

 調査によると、人が傍らにいて嫌だと感じない距離は、国によって違いがあるのだそうだ。アメリカ人は60センチ離れていれば邪魔だと感じないが、日本人には120センチ必要らしい。それなのに日本の住宅事情は、家族がどうしてもくっついて暮らさないと包み込めない広さしかとれないとは、随分皮肉なことだ。

 もう1人の主婦のほっとする場は、トイレ。広めのトイレを好みのインテリアで飾り付け、家事や家族との会話に疲れるとトイレにこもって本を読んだり、色々考え事をしたりすると言う。家族が多いわけでもないのに、リビングより寝室より「トイレがほっとする」のだそうだ。

 キッチンをほっとする場として挙げた主婦も何人かいた。前述の「ほっとする場」は「静」だったが、キッチンは「動」のほっとする場。身体や頭を動かしながら、調理という創造性あふれる行為をしている時に、最もほっとしていると言う。

 確かに調理は、働く人たちにお薦めしたいストレス解消法の一つである。会社でどんなに嫌なことがあったとしても、自宅に戻り、キッチンに入って包丁を持てば、指を切らないために神経を指先に集中せざるを得ない。意識を指先に集中して、出来上がりだけを想像していると仕事のことなんてすっかり忘れてしまう。仕事で緊張していた頭をいったん解き放つと、食後にまた新しい気持ちで問題にぶつかることができる。ここで重要なのは、「包丁を握って指以外の何かを切ること」である。

 住まいは明日への活力を取り戻す場。家庭に戻ってほっとすることによって、「また明日も頑張ろう」と思える。家族の関係をよりよく保つためにも、明日への英気を養うためにも、くっついている時間と、1人になって個としての自分を取り戻す時間の両方が必要であり、そのための場所を確保することが大切ではないだろうか。

2005年10月07日 asahi.com

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